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中日クラウンズ 2006

片山晋呉「課題でいっぱいです」

ガッツポーズはおろか、笑顔さえもなかった。大会2度目の優勝シーンは片山らしくもない。1万人を超えるギャラリーを集めた最終日。周囲の喧騒とは対象的に、チャンピオンは固い表情のまま18番グリーンを下りてきた。

納得できない・・・。
そんな気持ちが、表情にありありと表れていた。
2位と5打差をつけて迎えた最終日。
もちろん、勝つつもりだった。
だからこの日は、鮮やかな青色のウェアを選んだ。
クラウンズブルーのウィナーズジャケット。それにしっくり合うように、コーディネイトも万全にしてきたのだ。
表彰式で、大会主催の中日新聞社・白井文吾会長に2着目のジャケットを着せ掛けられながら、しかし喜びに浸りきることはできなかった。

1番、2番のバーディで2位と10打差。
出だしの連続バーディは、前夜から決めていた作戦だった。
「死ぬ気で、取りに行こうと」。
そこまで思いつめたのは、相手も必ずその2ホールをきっかけに伸ばしてくると考えたからだ。

しかし、2位の川原は2番でダブルボギー、3番でボギーを打った。
いきなりついた大量リードに、心のバランスが一気に崩れた。
「途中、こんなに差がついたのは初めてで。どうやってプレーすればいいのか。整理がつかなくなった」という。

「自分さえ落とさなければ、と・・・。絶対にピンを狙わないようにした。和合は、狙うとすぐにボギーになる。とにかくパーを取って行こうと。相手がバーディを取らないとダメ、というように見せよう、と。・・・でもその一方でこれだけ差がついたのだから、優勝はもう大丈夫という気持ちもあった。その中で、どうモチベーションを保てばいいのか。行っていいのか、行っちゃいけないのか・・・。1打ごとに、迷ってた」。

自分の攻め方に、確信が持てない。最後まで戸惑いを抱えながらのプレー。
「こんなこと、初めてだった」。
結局、最終18番も、1.5メートルの短いパーパットを外した。
大会最少ストロークの通算20アンダーにも届かなかった。
2打差で逃げ切ったものの、ファンの期待に答える勝ち方ができなかった。
「これでよかったのだろうか」との思いが渦巻いていた。
ツアー通算19勝目をあげながら、「勝つって本当に大変だ」と、改めて思い知らされた。

表彰式で白井会長の閉会のスピーチを聞きながら、片山はしきりに腕を動かしていた。
首をかしげてスイングチェックをするしぐさ。勝った直後も「課題でいっぱい」と、それに酔う暇もない。
現状に満足することはけしてない。
この貪欲さが日々、進化を続ける賞金王の強さの秘訣でもある。

「今回はこれまでにない勝ちパターン。新しい引き出しが増えました。とりあえず良い経験として・・・。今年は賞金王を、というよりとにかくたくさん勝利数を重ねていきたい。まずは、これで1勝です」。
2006年度のシンゴ伝説は、いま始まったばかりだ。

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