Tournament article

ゴルフ日本シリーズJTカップ 2023

タイガが笑った、最後に泣いた「伸ばしきって中島選手に勝てたのは嬉しい」22歳の蟬川が60回目で史上最年少V

タイガが最後に笑った。そして泣いた。

蟬川泰果(せみかわ・たいが)が賞金王の中島啓太(なかじま・けいた)と、賞金2位で大会に入った金谷拓実(かなや・たくみ)を1差の2位で退け今季2勝目、アマプロ通算4勝目を達成した。


60回目を迎えたメモリアル大会で、22歳と326日の優勝は、1981年の羽川豊氏(23歳363日)を抜いて大会最年少記録も達成。

シーズン最後の頂上戦で自身8ヶ月ぶりの頂点に立ち、「チャンスがあった中で勝ちきれず、自信をなくしかけていた。最終戦で2勝目あげたいという気持ちでのぞんで、本当に勝てたのは良かった」。


Vインタビューでも勝てなかった8ヶ月を思って、シャツで涙をふく今年最後の勝者に、同学年の新賞金王も惜しみない拍手を送っていた。



60回目もやはり最後18番でドラマが待っていた。


終盤、中島と金谷との三つ巴の首位タイから17番、パー5での2パットバーディで再び1差で抜け出し迎えた屈指のパー3は「昨日のことが頭にあった」と、第1打を奥に打ち込み、グリーンを行ったり来たりでダブルボギーを叩いた前日3日目の雪辱がよぎった。


「きょうは警戒して、4番アイアンで、上手く当たればピン横くらいかなというイメージ」と、失敗を踏まえたつもりのティショットは、「当たりが薄くて、右に抜けた」と、思った以上にグリーンに届かず、25ヤードのアプローチが残った。


「左足下がりのアップヒルで、ピンが近く、風はアゲンスト。タフな2打目。パーかダボかな、と言う覚悟を持って」と、60度のウェッジを大きく開いて構えた。

「高さを出して、スピンを入れて。頑張って打ちました」と、ここ一番のアプローチはピン横にぴたりと止まった。

この上ないドラマチックな1打で決着。



観衆のどよめきと歓声を、最後の最後に独り占めした。


東北福祉大4年の昨年、「日本オープン」で史上初のアマ2勝を達成してすぐプロになり、今年4月の「関西オープン」ですぐプロ初Vを飾ったが、その後は「勝てるイメージがなくなった」と、足踏みが続いた。

「トレーニングして、練習して、何度か優勝争いはできているけど勝てない」。

プロ1年目。
「連戦も初めて。積んでいく過程に意味があるのは分かっていても、モチベーションがあがってこない。特に6、7月はめちゃくちゃしんどいな、と」。


その間に、同学年の平田憲聖が2勝を挙げ、中島が金谷とバチバチの賞金レースを開始し、「自分の存在が薄れていくんじゃないか・・・」。不安はどんどん膨れあがった。

「一番メンタルがずたぼろ」と振り返るのは9月、昨年アマでのツアー初優勝を飾った「パナソニックオープン」でまさかの予選敗退し、さらに昨年アマ2勝目の10月「日本オープン」も36位タイに終わったとき。


「すごく調子も良かったので、連覇できればと思っていたのに、出来なくて辛かった。一番投げ出したくなる時期だった」。

帰宅して、お父さんの佳明さんにぽつりとこぼした。
「去年より、下手になっているんかな・・・」。

苦悩の中で、強気のタイガを再び取り戻すきっかけは、10月末のオープン週だ。


「暗いな」とお父さんに指摘された。
「考え過ぎている。もっとミスを許していいんじゃないか」。
生まれたときからタイガのゴルフを見てきたお父さんの言葉は重かった。


メンタルコーチにも、「ミスしてもおおらかに。ガッツを出してもいいんじゃない?」と押し出されて翌週の地元「マイナビABCチャンピオンシップ」で3位タイ。
今年9大会ぶり、7試合目のトップ5入りを果たした。


さらに先週まで「ダンロップフェニックス」の2位などトップ10を2週続けて、最終戦入りしてきた。

強いタイガが完全復活した。



泣きながら18番グリーンを降りてきた姿に目を細めて「これがオレの息子です、とみなさんに言って歩きたい気分やわ・・・」と、誇らしそうな佳明さん。


最終戦での2勝目で、大会前の金谷と入れ替わり、賞金2位に食い込んだ。
昨季同様に、賞金3位までの選手に欧州・DPワールドツアーの出場資格がある。


きのうもおとといもコースを出る際、息子が無くしたと言って慌てていたスマホはおとといは車の中、きのうはロッカーの天井に置き放しで、家族で大騒動した。
前夜祭用のスーツはカバンに入れても、革靴は忘れたと言って、現地調達したのは今年だけで2足。
まだまだ息子のことが心配で、本当はあまり遠くに行って欲しくないけど、「本人が決めること。ええ大人やし。好きにしーや」と、送り出してあげる。


今週は、応援団の方々が作ってくださった「TAIGA SEMIKAWA」のロゴがついたピンクのタオルを振る人の数がひときわ多かった。
「毎週、各地から応援に来てくださった方々。家族の前で、最後に優勝をまた見せられた、というのは本当に嬉しかった」と、涙ながらに感謝した。



蟬川も、可能性を残していた賞金王は先週、すでに同学年の中島が決めていた。
「実質1年目で賞金王になるのはハンパじゃない。あれだけ優勝するというのも凄いし、夏場なんかはほぼ毎週のように最終日最終組で回っていた。ずっと結果を気にしていた」と蟬川も毎週のように、他の誰より中島の結果を気にした。


「安定感も凄いし爆発力もあるし、ちょっと頭ひとつ抜けている印象」と、ひれ伏すしかなかった相手に土壇場で一矢報えた。


「きょうは、伸ばしきって中島選手に勝てたのは本当に嬉しかった」とこの1勝をひとつ自信に「いずれは追いついていけるように頑張りたい」と、自分に誓った。


昨年11月のプロ転向から怒濤の丸1年。
やっとつかの間のオフに、楽しみにしていることは「ない」という。

「ゴルフをしていない期間が不安なんです。また今年もオフに不安に襲われるんじゃないか・・・」。
オフもすぐ、来季にむけてまた用心深くツメを研ぐ。