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日本プロゴルフ選手権大会 日清カップヌードル杯 2014

倉本会長が就任1年目のプロ日本一決定戦で目指したもの

会長就任1年目のプロ日本一決定戦。2014年の舞台に選ばれたのは、兵庫県西脇市は「日本のへそ」にあるゴールデンバレーゴルフ俱楽部だった。秋には渓谷に紅葉が輝くばかりの美しさから名付けられた。“黄金の谷”はその風情とは裏腹に、コースレートは驚愕の“77.4”。

このモンスターコースで倉本会長が、プロ日本一を決める舞台を整える上で、メンバー関係者の中には、大会期間中もその“数字”を損なわないセッティングをと望む声もあった。

しかし、倉本会長は懸命に説得に歩いたという。
「ひたすら守りに徹した選手が勝つような、そういうゲームを見ていてお客さんは楽しいでしょうか。選手はやってて、面白いのでしょうか」。

今回、倉本会長がコースセッティングを施す上で、こだわったのは「リスクと報酬」。ただ距離を伸ばし、むやみにラフを伸ばし、フェアウェイを狭くして、厳しい位置にピンを切る。そういうコースセッティングは世界メジャーでも、もはや次第に姿を消しつつある。
ただ選手をいじめるだけのセッティングでは、選手の技量を本当に引き出すとは言えないからだ。

リスクを覚悟で挑戦させる。果敢に挑めばバーディ、時にはイーグルのご褒美もあるかわりに失敗すれば、ボギーやダブルボギーの洗礼を受ける。紙一重のコース。倉本会長が理想に掲げたのも、そんなコースセッティングだった。

たとえば初日から、2日間とも難易度1位だった2番パー3。3日目は手前から12ヤード、左6ヤードのピン位置に対して、ティーグラウンドを思い切って56ヤード前に出したのも、選手たちにはいま持てる力を駆使して挑戦してほしかったから。

倉本会長の意図に、選手たちも応えた。
積極的に選手たちに意見を聞いて回る中で、倉本会長には嬉しい声が多く届いた。「倉本さん、ここでは逃げちゃダメなんですね、と。逃げちゃスコアが出ないんですね、とそういうことを言ってくれる選手が多かったので」。

また、ただ意見を聞いて回るだけではなく、倉本会長は実際のデータ取りにも余念がなかった。18ホールのうち16ホールで池やクリークが絡むコースで、予選ラウンドに選手が池に入れた回数を数えてみたのだという。

「初日が156個で、2日目は159個。風がやんだ2日目も、池ポチャの回数が減るどころか、増えていた」。天候や条件にかかわらずにリスクを覚悟で、攻めていく選手たちが多かったという何よりの証拠である。「実は、逃げたら逃げただけ苦しくなる」。そんな舞台を前にして、選手たちが日に日に挑戦意欲を剥き出しにしてきたことを、何より数字が物語っていた。

会長就任と同時に、ひとまずレギュラーツアーは撤退。裏方の立場でトーナメントを監修することになり、倉本会長が改めて気が付いたことがある。「選手のレベルがものすごく上がっているということ」。そのひとつが攻守のメリハリ。「狙っていくところと、守るところ。全体的に、そのゲームプランが非常に明快になってきている」。また、特に2打目以降の精度。「距離感や方向性が、非常に上がってきていると感じた」。
そしてそれこそ倉本会長が、世界基準を目指して施したコースセッティングが、選手の技量を引き出したのは間違いない。

大会前に想定していたイーブンパーから5アンダーの優勝スコア。それを上回る9アンダーもまた、倉本会長には嬉しい。「日本の選手のレベルはまだまだ捨てたもんじゃない。それを実感できた大会になったと思います」。同時に自分の思いを理解して、惜しまぬ協力で応えてくださった。コース関係者のみなさんにも感謝の気持ちを禁じ得ない。

大会は最後までスリリングな展開の中で、倉本がかねてより「攻守のメリハリが上手い選手」と評価していた手嶋が、今年のプロの日本一の座についた。就任1年目の大一番は、累計18834人の大ギャラリーを集めて成功裏に幕を閉じたことで、倉本会長の士気もますます高まった。

「これからも、選手たちの技量を底上げしていけるような舞台作りを進めたい」。来年の舞台は、埼玉県の太平洋クラブ江南コース。「またぜひそこで、お会いしましょう」と、就任1年目のプロ日本一決定戦を締めくくった。