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〜全英への道〜ミズノオープン 2013

片山晋呉が生まれ変わって挑む、ツアー通算27勝目【インタビュー動画】

フラットで、遮るものが何もないリンクスコースは、苦手だ。“本場”を彷彿とさせる、ここJFE瀬戸内海ゴルフ倶楽部もまたしかりで、「一番結果が出ていないコースかもしれない」。同倶楽部で行われた今大会の出場回数は2度。2000年は予選落ちをして、昨年は47位に終わった。

今年は水曜日のプロアマ戦が大雨のため中止になって、午後から9ホールしか回れず、専属キャディの佐藤賢和さんに、ひとつだけお願いをしておいた。

「せめてティショットを打つ場所だけは、きっちり決めておいてね」。佐藤さんが、月曜日から2ラウンドをかけて、入念に下見を重ねて構築した攻略ルートを寸分違わず忠実にたどっていくさまは、まるで精密マシーンを見るようだ。

そこに、自分なりの遊びも加えていく。
「風に乗せて飛ばしたり、同じ組の選手がそんなに曲げるんですかっていうくらいに、球を曲げて打ってみたり。昔の倍以上は曲げて打っている。そういうのがいま、楽しくって仕方ない」。

こんな心境でゴルフをやるのはもう何年ぶりだろう。「…5年ぶりくらいじゃないかな?」。次の27個目の勝ち星から遠ざかったのと、同じ年月。2009年のマスターズで、日本人最高の4位に入った直後に、目標を見失い長くさまよってきた。

「やらなくちゃいけない」と、練習にもトレーニングにも、今まで以上に時間を割いても、「気持ちがついてこなかったんです」。この日は15番でボギーのあと、16番ではダブルボギー。

200ヤードのパー3は、ティショットを左奥に落として、アプローチはユーティリティを使って転がし上げたつもりがいったん傾斜をかけのぼったボールがまた転がり落ちてきたばかりか、3パットを打った。

少し以前なら「とっくに諦めていた」という場面。「でも今日はここ何年間かの自分とは、違うんだっていうところを見せられたと思う」。次の17番のティショットは、フェウェイをとらえると、残り171ヤードの2打目は8番アイアンで、2メートルのバーディを奪い返した。「こうして取り返して来られるというのが大事で、前はこうしたいけど、出来ない自分がずっといたから」。

気持ちに体がついてこない。また、体に気持ちがついてこない。そんな状態から、「ようやくいま、気持ちと体が平行になって、またやってやろうと言う気持ちになっている。今はゴルフをやってて幸せですね」。今年40歳を迎えてひとつ、大きな目標を持てたことが大きい。「40代でも賞金王」。6度目の栄冠を、ぜひ不惑の歳に。そう考え始めたらここ丸3年も、ライブで見ていなかったマスターズのテレビ中継を、今年は見てみようという気持ちにもなれた。「いまここでやったら、自分はどれくらいかなとか」。一時期かかった燃え尽き症候群も、そんな仮想オーガスタを描けるまでに、回復してきた。

そしてようやく見えてきた完全復活。「いや…、いまは全盛期ともちょっと違う。新しい自分がいます」。黄金時代はどちらかというと、もっとギラついた感じだったと自分でも思う。「怒ったり、喜んだり。もっとテンションが激しかった」と振り返る。しかし今は、端的にいえば泰然自若。「頭にも来ないし、良いことがあっても特におおげさに喜ぶでもなく、すべてを自然と受け入れられる」。新境地で迎える優勝争いだ。

以前は全英オープンも、苦手だった。寒くて、過酷で、気持ちもふさぎがちなゴルフの原風景が、嫌だった。でも今週は、佐藤キャディに言われて素直にうなずく。「行きましょうよ、イギリスへ!」。新生・シンゴでリンクスコースに挑んでみたい。そんな欲すら出て来たのも片山に訪れた大きな変化だ。

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