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ゴルフ日本シリーズJTカップ 2013

家族が見つけた優作の変化

ここ近年、特に著しかった宮里家の次男の心の変化にいち早く、気づいていたのはやっぱりお母さんだった。豊子さんは言う。「優作は、結婚して人間が丸くなりました」。大会2日目。東京よみうりの18番は、屈指のパー3で、ダブルボギーを打った優作が「やっちゃった」と笑いながら上がってきたのも、「これまでの優作にはなかったことです」。

「兄妹で一番練習するし、一番マジメなのも優作」と言ったのは妹の藍さんだが豊子さんは「その分、一直線で、練習の手を抜くこともしない。自分で自分を追い込む性格は、ときどき周りが見えなくなることもしょっちゅうでした」と、心配だった。

それが2007年に4つ上の紗千恵さんと結婚し、昨年は二児の父親になり、「私から見ても、優作は非常に楽しそうにゴルフをするようになりました」。ある日、紗千恵さんから届いたメールが、豊子さんにはとりわけ嬉しかった。

「先日は、優作が“オヤジには感謝している”と言っていた、と」。
以前はどちらかというと意地っ張りで、コーチでもある優さんにも、自分から相談を持ちかけることもなく「アドバイスも聞き入れないところがあった」(豊子さん)。
それが今週も、前週のカシオワールドオープンで7位につけて、土壇場で2年ぶり3度目のこのツアー最終戦の出場権を手に入れるなり、「パットが全然入らない。なんとかしてくれ」と優さんにすぐ、電話をかけてきた。
「今週は、行けないからそっちでやって」とすげなく断られてもすねることもなく、杉澤キャディと二人三脚で修正に取りかかったという。

「最近は、ショットもパットも凄く良くなってきていたし、これはいけるかもしれない、と。パットもずっと前からストロークは完璧だから。僕の出番はないよ、と。そのストロークが試合でも出来れば大丈夫だと、言ったんです」と、優さん。

最終日に応援に来るのも、実は心が引けていた。「僕が見に行くといつも、僕の焦りみたいなのが電波みたいに優作に伝わって、良くないのではと思っていたんです」。
しかし躊躇する父に、強く観戦を勧めたのは藍さんだった。
「藍が私に電話をしてきて、どんな状況でも勝つときは勝つし、家族のサポートは大事だし、気楽な感じで行こうよ、と」。
そこで優さんが目の当たりにしたのは、何より息子の心の成長だった。

「以前はミスをすると、せかせかと焦っているのがよく見えたものでした。でも今日は地に足つけて、静かに歩いていた。心の面で常に平坦だったと思います。そこが一番、以前の優作とは違うところでした」(優さん)。

そして、藍さんにも今回は何か、感じるものがあったのかもしれない。ちょうど2年前のこの大会も、家族で応援に行ったが、兄は勝てなかった。また応援が、重圧になるかもしれないとの懸念も少しあるにはあったが、「私たちが行っても今回は大丈夫なような、そんな雰囲気がしたんです」と、藍さん。

「この10年くらい、本当に腐らずにコツコツと努力してきているのがお兄ちゃんだったので。その努力は裏切らないはずで、あと勝つか負けるかはタイミング。本人が我慢強く頑張っているんだから、周りはさらにもっと我慢強く応援してあげたいな、とそんな気持ちもありました」と、藍さんは言った。
どんなときも、自分を信じて励ましてくれる家族がそばにいてくれるから頑張れる。改めて、宮里家の結束の固さを知らしめた今回のツアー初優勝にもなった。