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つるやオープンゴルフトーナメント 2012

藤田寛之が大会2勝目、ツアーは通算12勝目

4打差の圧勝に、一応は軽く握ってみせたガッツポーズに貫禄が漂って・・・
誰もが42歳に道を譲った。3打差の首位で出たハン・リーはスタートでいきなりダブルボギーを叩き、最大の敵と思われた金庚泰(キムキョンテ)も、14番でダブルボギーに沈んだ。次々と崩れても、「きっとまた誰か出てくる」と、そんな警戒も無用だった。15番でこの日最後のバーディを奪えば、もう誰も追いかけては来られない。そのままあっけなく逃げ切った。

この日最終日は早朝から強い雨風にも、藤田にはこんな自負がある。「自分自身、悪条件に強い選手だと思っている」。巧みなショットと絶妙の小技。こんな嵐の日ほど、研ぎ澄まされる。絶対にミスをしない。鉄壁のゴルフでいつのまにか上にいる。「周りの選手もみな僕にはそういう印象があるのでは。どこにも隙のないゴルフをする、と」。今や、それが藤田に静かな凄みを与えている。

この日は4つのバーディもさることながら、ピンチといえば16番のひとつだけ。バンカーから寄せきれずに4メートルを残した。しかし、これも難なく沈めたら、もはや勝ったも同然だった。

谷口徹とアラフォーの大バトルを繰り広げたのは2年前。2010年大会は、プレーオフ3ホールの激戦を制した。「それなりに、僕も経験をしてきているので」。ここ山の原でやるべきことは、決まっていた。これまで師匠に再三、言われてきたことだ。今回は前夜にジタバタと、芹澤信雄に電話で聞かずとも、分かっていた。

「とにかく、今日は4アンダーを目標にやってみる。それで勝てなければ仕方ない」。大会2勝目は、筋書き通りの圧勝だった。最後はタップインのウィニングパットも、一昨年前のように小躍りするでもなく、大歓声に促されるまま軽く握った余裕のガッツポーズに貫禄が漂った。

ちょっぴりすかした優勝シーンに、兄弟子を胴上げしようと駆けつけた宮本勝昌は「勝って当然と思ってんじゃない?!」。冷やかされてもまんざら否定はしない。「まだまだ勢いは衰えてないぞ、というのを今日は確認することが出来ました」。いつになく、自信あふれる言葉で胸を張った。

「昨日よりも今日、今日より明日。なんで自分でも、こんなに頑張れるんだろう」と、本人すら呆れかえるほどに、このオフもゴルフ漬け。昨年末には240万円もするトレーニングマシーンに買い換えた。年々高いハードルを自らに課して、ひとつひとつ丁寧に飛び越えてきた。「2年前の僕より、今の僕の方が全然強い」。それだけのことをやっている、という確信が言わせた。「2年前より上手くなっていないといけないし、上手くなっていて当然です」。

その積み重ねが、昨シーズンに到達した生涯獲得賞金10億円超えであり、これで5年連続の勝ち星であり、40歳を超えてからの6勝目である。これほど長く、毎年優勝を継続している選手はいま、藤田しかいない。また、40歳以降の6勝は、藤田を含めて青木、ジャンボ、中嶋のほか8人しかいない。

「アラフォーの星とか、言われてまくって頑張っています」。むしろ、言われ出してからのほうが、この人は強い。「本当にすごいね」と褒めそやされることも格段に増えた。来月には43歳を控えてやっと悟った。「ゴルフは天職」。それでも奢ることなく謙虚に努力を続けていけるのは、客観的に自身を見つめているから。
「ああいう凄いことをやっているのは“プロの藤田さん”という方で、プライベートの自分はまた別にいる」。家に帰れば今年9歳になる長男の大稀(ひろき)くんの成長に悩み、時に厳しく叱りつける父親の顔。分刻みのスケジュールを縫って家族サービスにつとめる夫の顔。「きちんと分けておかないと、危険なんです」と、藤田は言う。

この日も優勝シーンから、1時間もしないうちに「すでに“プロの藤田さん”という方は、僕の中から半分抜けている」という切り替えの速さだ。勝った直後に、勝った自分をもう俯瞰して見つめている。だからこそ溺れることなく、また夢に向かっていける。

周囲の期待をよそに、初の賞金王獲りには相変わらず、「魅力を感じない」と言い切る。「自分が目指すところではないので」。それよりも、実現させたいのは「頑張っている自分に自分の生き様を重ねて、“藤田が頑張っているから俺も頑張れる”と言ってもらうこと」。同世代のファンに元気のお裾分けが出来るなら「それは優勝よりも嬉しいこと。プロとしての意味」。そんな思いが優勝スピーチでは“異例”の「みなさんも、頑張ってくださいね!!」と、逆にファンを励ます言葉になる。

藤田がこだわりたいのは数字ではなく、挑戦し続ける姿勢を見せ続けること。国内のメジャー獲りや、海外メジャーへの挑戦などもそのひとつで、昨年初出場を果たしたマスターズが、新たに目標に加わった。「全米オープンや全米プロの“競技”とはまた違う」。オーガスタを能舞台にたとえて、「今まで練習してきた舞いを、舞ってもいいんだよ、と許された場所」。また、どんな「演技」を見せても惜しみない賞賛を送ってくれる。「パトロン」と呼ばれる地元ギャラリーの存在にも魅せられた。「もう一度、あそこでプレーがしたい」。だからこそ、もっと頑張る。

慣例として毎年、日本ツアーの賞金王に必ず贈られてきた招待状。「賞金王にはそんなおまけもある。それは確かに魅力かな」と、ちょっぴり本人もその気になりかけているから、今年の年末にはもしかして・・・。
  • ホールアウトするなり、宮本や河瀬賢史、上井邦浩ら弟子仲間にあっという間に取り囲まれて手荒い祝福を・・・
  • 抵抗むなしく、「怖い怖い」と悲鳴を上げながら胴上げで宙を舞ったアラフォーの星
  • こてこての関西弁のスピーチでお馴染み!! つるや株式会社の西村文延・代表取締役社長から着せかけられた2着目のチャンピオンブレザー!!
  • 毎年、ジュニア育成に力を入れている今大会では今年も最終日に地元小・中学生の「ジュニアボランティア」のみなさんが、運営をお手伝いしてくださった!!

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