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ダンロップフェニックストーナメント 2012

藤田寛之は「勝てば大金星ですけれど」

大会が始まる前に、藤田がひそかに願っていたことがあった。「ルークと一緒の組み合わせにしてくれないかな」。

昨年は欧米のWキングで、現在世界ランクは3位の選手とは、ずっと一緒に回ってみたかった。

予選ラウンドでは、あらかじめ組み合わせが決まっている。
「そこで回れれば、手っ取り早いと思った」。
ひそかに期待をしていたが、当てが外れた。

石川遼との同組にも、「遼くんはプロ意識の強い選手。スイングも前向きで、プロフェッショナルとして認めている選手の一人。いつも刺激を受けてます」とはいえ、ルークとは惜しくも、前後で分かれてしまい、こうなったら自力で実現させるしかなくなった。

それだけにこの日は18番で「無理をした」。決勝ラウンドからは、スコアの良い選手ほど、後ろの組で回る。その時点で通算6アンダーは、もうひとつ伸ばせば、確実にルーク・ドナルドと、3日目にして最終組で回れる。

しかし藤田はこの最後のパー5でティショットを左のバンカーに入れてしまうのだ。
「普通なら、2打目は横に出すしかない状況。でもそれだと、3打目にバーディチャンスにつけられない」。
いつもは冷静沈着な選手が勝負に出た。ただ、ルークと同じ組で回りたいがために、だ。

「前の木も、さらにその前の木も邪魔でしたが、7番アイアンで前の木の下を抜き、さらにその前の木の上を抜いて、3打目を残り120ヤードまで、無理矢理持って行きました」と、藤田は言う。

最後は計算どおり。3打目もピッチングウェッジで寄せてみごと、1.5メートルのバーディ締めで、理想の組み合わせを実現させた。
危険な賭けも、すべては「いま、ここにいる中でもっとも強い選手がどんなプレーをしているか。世界ランク3位の選手と一緒にプレーすることで、ゴルフの内容とか、空気感とかを知りたかったから」と、何より世界ランクのトップ50入りをモチベーションにしている43歳のベテランは、まるで恋い焦がれるように、その選手との直接対決を、嘱望していた。

もっともその日を前に、すでにその底力を見せつけられている。
この日のルークは藤田がリーダーボードを見上げるたびにスコアを伸ばしていて、同じ組の石川遼と「いったいどうなっちゃってるの」と、首をひねるやら、驚嘆するやら。

決勝ラウンドを前に、すでにその差を見せつけられた格好だが、「テニスやサッカーでは、ありえない。世界ランク3位の選手と、52位の選手が一緒に戦えるのは、ゴルフ以外では聞いたことがない」と、日本に居ながらにして、その醍醐味を味わえるのは嬉しい。

「彼に勝てれば大金星とか言われるでしょうけれど」。
目標の世界ランクも、急上昇することは間違いない。
「勝てば、欲しいものもすべて手に入るんでしょうけれども…」。
コースと、自分との戦いに徹するベテランには、目の前のルークを倒したい、とまでの強い欲求は今のところはなさそうだが。



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