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片山晋呉の今年の目標は……

二匹目はなんと50センチのフナをゲット! まさに大漁の合宿初日。ゴルフでも今シーズン、大物を釣り上げる予感…!?
さっそくその効果はあった。釣糸を垂らして約1時間がたったころ。ウォーミングアップ中の片山が、ふいに池に向かって一目散に走り出した。確かに、耳をすませば、獲物がかかったときに分るようにと竿に取り付けた鈴が、シャンシャンと鳴っていた。

まず1匹目は40センチ。続いて30分も経たないうちに、さらに大きな50センチのフナがかかって片山は大喜び…!!

期待以上の釣果にそのあとの練習も「なんだかその気になってきたよ」と、がぜんやる気に。
準備体操がわりのキャッチボールも俊敏な動き。
「ミケルソンも、朝はいつもこれで身体をほぐしているんだよ」と言いながら、軽快な音でミットを鳴らす。

続いて左打ちでのバッティング。野球のバットで小さなゴルフボールを器用に真芯に当てていく。
ボールを投げていた谷コーチが途中でいたずらに、小さな松ぼっくりを投げ込んだ。
しかし、ひるむことなく正確に芯に当ててみせ、「良い感じでフィーリングが戻ってきたよ!」と声も弾んだ。

今年、谷コーチが選手に出した新たな課題は単刀直入に言えば、「まっすぐに、より遠くに」だ。
「今年はナチュラルドローを極める」。
そのために、まずアドレスから変える。
まずグイとお尻を突き出し骨盤を前傾させて、背筋を伸ばして構える。こうすることで、股関節を効果的に使ったスイングが可能になる。インパクトで右肘と身体の一体感が出しやすくなり、パワーをボールにフルに伝えられる。ショットの安定感も格段に増す。

言われるがまま、一心不乱にボールを打っていた片山がふと我に返って派手に顔をしかめた。
「キツイよ、この打ち方…!!」。
谷コーチが言うスイングを体現するためには、まず鍛え上げられた肉体が必要なのだ。
今月11日から16日間にこなしたハワイ合宿で、谷コーチが出した下半身強化のハードメニューはこのためだった。

おかげで腰回りは見た目にも、一段とたくましさを増して帰国したはずだが、このスイングをドライバーのフルショットでやり続けろと言われたら…。
考えただけでうんざりする。

しかしその分、谷コーチが撮ってくれたビデオカメラで見る限り、スイングの美しさはより際だっている。
「でもキツいよ……!!」。
思わず嘆き節の片山に、谷コーチがゲキを飛ばした。それは、本人も仰天の目標だった。
「シンゴのスイングは、世界でも5番目には入るんだから。今年は世界ランクもトップ10には入らなくちゃね」。
その言葉に片山が、素早く反応した。
「僕のスイングが世界で5番目、本当に…!?」。
谷コーチがニヤリと頷く。

一度、調べたことがある。
世界ランク100位の選手のうち、もっとも小さい選手は誰か。
「身長も体重も、間違いなく僕だった。ゴルフが階級別なら、僕は(ボクシングでいう最軽量の)ストロー級できっとトップになれたのに…」。
前週までの世界ランクは34位に食い込んだが、それが限界だとも思っていた。

体格の差を改めて嘆いた一方で、別の自信も芽生えていた。
「そのことを、自分のプライドにしてやればいい」。
体は小さくても、地道な努力でここまでやれることを証明したい。
そのためなら、どんなことも厭わない。
谷コーチの言葉で改めて、胸の奥に秘めていた闘志がうずくのを感じていた。

合宿初日。
「どうにもやる気が出ない」と初めボヤいていた賞金王が夕暮れ間際には、まるで鬼の形相で、ボールと向き合っていた。

このあと、アジアンツアーのメイバンクマレーシアオープン、世界ゴルフ選手権アクセンチュアマッチプレーに出場し、3月には米ツアーのホンダクラシック、CAチャンピオンシップのあと、再び宮崎合宿を経ていよいよマスターズだ。

厳しい視線の先には昨年、予選落ちの憂き目を見たオーガスタがある。
「具体的な目標は、今はまだ見えてこない」という片山だが、過酷なオフ合宿を終えたころにはきっと、その答えもくっきりとした形をしているはずだ。


  • ミケルソンも取り入れているというキャッチボールでウォーミングアップ
  • より完璧を求める谷コーチのスイング指導は、それこそミリ単位のズレも許されない。
  • ビデオでスイングチェック。「もう、去年とは格段の違いだよ」と谷コーチ(左)に言われて段々、闘志に火がついてきた!!

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