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全英オープントピックスミズノワークショップカーが会場で大活躍

ロイヤル・トルーンの広大な練習場に、鮮やかなブルーが映える。ミズノのオフィシャルワークショップカー。いわば、トーナメント会場のクラブ工房出張所だ。

アイアン研磨機を搭載したこの大型バスに、スタート前の選手たちがクラブ片手にあわただしく駆け込んでくる。
「トミー!! ちょっとグリップを調整してほしいんだけど・・・」。

さっそくやってきたのは欧州ツアーのトッププレーヤーで、今大会地元出身のコリン・モントゴメリー。ミズノの契約選手ではないが、彼もここの多くの常連のひとりだ。
グリップの調整が済むと、「サンキュー!」と言ってモンティは、満足げな笑みを浮かべてコースに出て行った。それを見送る2人の表情も、どこか嬉しそうだ。

ワークショップカーの日本人スタッフのひとり、“トミー”こと山口貴光さんが、クラブクラフトマンとしてこのバスに初めて乗り込んだのは97年、ミュアフィールドで行われた全英オープンだった。
以来、毎年シーズン3月から11月までバスに乗り、欧州各国を転々とする生活を続けている。

はじめは文化や言語の違い、ときにはホームシックにかかったり、会場での仕事以外にも、慣れない土地での苦労が続いたが、いまでは選手たちの信頼も勝ち得て、ワークショップカーの顔として活躍している。

選手たちの多くは、夏と冬でグリップの太さを変える。手がむくみやすい夏は、細いグリップ。冬は太めに。5年目となったいまは各選手の個性をすっかりと把握して、相手から言われなくても季節にちょうどあった太さのグリップを、提供できるまでになった。山口さんの迅速かつ、丁寧なクラブ調整に、選手たちからの評価は高い。

もうひとりの日本人クラフトマンは、“テリー”の愛称で親しまれている寺園幸彦さんだ。
昨年まで日本の女子ツアーを担当していたが、今年から山口さんと二人三脚で欧州ツアーをまわっている。
ヨーロピアンツアーを見ていて寺園さんがつくづくと感じるのは、こちらの選手たちはみな良い意味でおおらかな点だという。

クラブ調整に関して、日本人選手ほど神経質になりすぎず、ある程度パッと見切りをつけてプレーに集中していける順応性を持っている。
そのかわり、クラブに対する良い・悪いの評価もはっきりしていて、選手の思う通りの調整ができた日は抱擁せんばかりの勢いで感謝の気持ちを表してくれるが、まったく気に入らない仕上がりには「NO!」と言ったきり、絶対に首を縦に振らない。
「そういう意味ではシビアな世界なんです」(寺園さん)。

そんな2人がこの仕事にやりがいを感じるときは、やはり「面倒を見てきた選手がトーナメントで活躍してくれること」に限るだろう。
山口さんがいちばん感激したのは、2002年の全英オープンだった。
当時、ミズノの契約選手だったトーマス・レベットが、アーニー・エルスら3選手とのプレーオフに突入。サドンデスにのぞむ直前、レベットはバスまでわざわざやってきて、山口さんに言ったのだ

「勝つか負けるかわからないけれど、とにかく、僕がここまでやれたのは君の親切なケアがあったからだよ」。
そのあと残念ながらゲームには敗れたが、脱落したほか2選手に対し、最後までエルスに食らいつく好戦を演じて、メジャー大会を盛り上げたのだった。

昨年はデンマークのソレン・ケルソンやイギリスのグレーク・オーウィン、オランダのマーティ・ラフィーバーらが、また今年になってデビュー当時から面倒をみてきたドイツのマルセル・シームが初優勝を上げるなど、嬉しいニュースが続いている。

契約選手を問わず、全選手を対象にクラブ調整を行う“オフィシャルワークショップカー”として、『ミズノ株式会社』が欧州ツアーに参入したのは1986年。
以来、多くのトッププレーヤーたちを世界舞台へと送り出してきた。
また今週の全英オープンでは、日本企業として唯一公式スタッフウェアを納品するなど、今大会への貢献も大きい。

「これまで“19年”という長い歴史の中で、僕らの仕事も少なからずツアーの発展に役立っている、と実感できることが最高に嬉しいですね」と、声をそろえた“トミー&テリー”。
今週が終わればまた選手たちとともに、世界を巡る旅が待っている。