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新人賞ほか4冠。金谷拓実が今年いちばん笑った日

人生初のタキシードで、ずっと笑顔



求めているものがあまりにも高いから、コースでボールを追う視線は、おのずと険しくなる。

自分にあまりに厳しいから、コースでは時々思いつめた表情になる。

 

でも、この日の笑顔は、近頃ちょっと見ないほど晴れやかだった。

 

プロデビューの2021シーズンを賞金2位で終えた金谷拓実(かなや・たくみ)は部門別の「平均ストローク賞」と「パーキープ率賞」に加えて「最優秀新人賞 島田トロフィ」とメディアのみなさんの得票数で決まる「ゴルフ記者賞」の4冠を受賞。

 

6日に、都内の「ANAインターコンチネンタルホテル東京」で開催した各年間1位者を顕彰する「2021年度ジャパンゴルフツアー表彰式」には、生まれて初めてというタキシードで登壇した。


 


「蝶ネクタイも。靴下もです」と全身、契約先のポロラルフローレンでばっちりキメて、何度もスポットライトで微笑んだ。

 

2013年の松山英樹に次ぐルーキー賞金王と、年度末の世界ランク50位内を目指して、賞金3位で入った先週のシーズン最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」はおそらく、23年の人生で、精神的にももっとも過酷な4日間だった。

 

逆転キングには、勝つしかない。

「世界ランキング(50位内)には、3位までとちらっと聞いて」。

毎日とにかく上へ、上へとまさに鬼の形相は、ついに通算8アンダーで入った最終日の最終ホールでピークに達した。

 

年間を通じても、ツアー最難関の18番パー3

5番のハイブリッドクラブで打った金谷のティショットは、ピン奥に着弾すると、急こう配をゆるゆるとたどって右手前「1メートルちょっと」のところで止まった。

 

土壇場のバーディ締めで、最低ノルマの3位につけた。

 

「勝てなくて、賞金王もなかったですけど、大きなガッツポーズをしたので同じ組の堀川未来夢(ほりかわ・みくむ)さんが、どうして?って。3位だったら、マスターズとかあったんですって言ったら、凄い凄いと褒められました」と、本当に久しぶりに楽しそうに、表彰式の会場で後日談した。

 

唯一60台の69.73を記録した平均ストロークなど、今季最多の4冠を喜びながら、ドライビングディスタンス1位で表彰された幡地隆寛(はたぢ・たかひろ)を、ひそかに恨めし気に「シーズン中は一生懸命、飛距離ばっかり見てましたけど、一番ダメな数字」と、平均287.11ヤードの41位に落胆。

「ちょっとでも上位に行かないかなって。毎日にらめっこしてました」と言って、自分でクスクス笑う様子は、シーズン終盤戦にはなかなか見られなかった、リラックスそのもの。

 

賞金レースが激化しだしたあたりから、抑えきれない気持ちの変化を自覚していたという。

「ちょっと…疲れてたんですかね。ゴルフ場にいると、なんか自分をコントロールできなくなっているなって感じていた」と、激動のルーキーシーズンが終了した途端に、自分を客観的にみる余裕が戻った。

 

「スコア良い悪い関係なく、良いスコアのときでも自分をコントールできないと感じていたので。昨日で、そういうのが終わると思うと、穏やかになりました」と、真摯に明かした。

 

「賞金王は届かなかったんですけど、諦めないプレーが最後まで続けられたと思うし、そういうもの(世界ランキング)もついてきましたし、今は穏やかな気持ちで…」と、ニコニコと、日ごろから選手のプレーを間近で見る報道陣の得票数で決まる「ゴルフ記者賞」の受賞には、ますます頬を緩めて「メディアのみなさんは優しい…」と、本当に嬉しそうだった。

 

プレーでは、もう何年もいる常連プロみたいな凄みを見せるがまだ23歳の新人で、むしろ、そのひたむきさがあるからルーキーでここまでやれる。

 

この日の表彰式では今年、アジア人として初のマスターズを制した松山も特別表彰した。

 

5日の最終日を戦い終えて、少し電話で話したそうだ。

 

「昨日の試合も見てくださっていたみたいで的確なアドバイスをいただきました。終盤にかけて、自分の中で変わったものもあったんで、これが原因だろ、っていう話もされて。ああ見ているところがすごいな、って。そういう風にみられてるんだ、って」。

 

偉大な大学先輩も、ちゃんと頑張りを見てくれている。

そのことが、どれだけ若者の励みになるか。

 

5日更新の最新の世界ランキングで49位に食い込み、このまま年が越せれば、松山が連覇を狙うマスターズで、金谷には3年ぶり2度目の出場が決まる。

「もし行けたら、またたくさん一緒に練習させてもらいたいなって思いますね。ただ、邪魔にはならないように…」と、言って以前みたいにまた柔らかい笑い声をたてた。