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片山晋呉がゴルフ伝道の講演会で伝えたかったこと

父との思い出は、涙なくしては語れない…。ゴルフ伝道の講演会で片山は、全身全霊で子供たちに語りかけた
ふいの沈黙がかえって子供たちに、賞金王の思いを如実に伝えてきた。1973年1月31日に、茨城県の筑西市(旧・下館市)で生を受けてから、これまでの36年の人生を、饒舌に語ってきた片山が堪えきれずに言葉を詰まらせたのは、父・太平さんのことを語っていたときだった。

「それほど裕福な家庭ではなかった」にもかかわらず、2歳で息子にクラブを握らせ、ゴルフの道へと誘ってくれたことへの感謝の気持ち。

“あるがまま”と“自己申告”の精神を、一番最初に教えてくれたのも父だった。

ひどいいじめにあって、登校拒否で困らせたのは小学2年のときだ。
クラス替えをしても学校への恐怖心を拭えない息子のために、毎日学校に付き添ってくれたりした。

「迷惑のかけどおしだった」。
日大卒業後に父親の反対を押し切ってプロ転向を果たしたものの、一銭も稼げなかった。
どん底のときも、いつも一番の応援者だった。
その父は、息子のツアー初優勝を見届けないまま、53歳で逝ってしまった。

涙が涸れるまで泣きじゃくる母と妹の姿を見て、心に誓った。
「俺が家族を支える。ゴルフに魂を捧げる。全身全霊でゴルフに打ち込む」。
今の片山の原点だ。

父の死があったからこそ、今の自分があると片山は思っている。
昨年、永久シードのツアー通算25勝目を達成した日本オープンを振り返り、「きっと天国で見ていてくれた、と…」。
そこまで言うのが精一杯。こみ上げる涙に言葉にならない。

ジャパンゴルフツアー選手会のメンバーたちが、リレー式に全国の小学校を訪ねて歩き、ゴルフの楽しさ、面白さを伝えて歩く“ゴルフ伝道の旅”もこれが最終回。

片山が、6月1日に訪ねた茨城県・水戸市にある県立盲学校で行った講演会で伝えたかったことは、どんな夢も持ち続ければ、必ず思いは達成されるということだった。

何かを成し遂げたときの感動は、また次の目標を連れてくる。
もう一度、あのときの感動を味わいたくて、また努力する。
その繰り返しがあって、今の自分があるということだった。

「みんなにも、どんな小さなことでもいい。お父さん、お母さんにこういうことをしてあげたいなあとかでもいいんです。常に目標を持って昨日より今日、今日より明日。少しずつでいいから努力を続けていって欲しいんです。もしかしたら、それは10年かかるかもしれない。僕だって、プロになったときは自分が日本一になれるなんて思ってもいなかったけど、思いを持ち続けることで達成できたから。みんなにも、少しずつでもいいから思いを叶えていって欲しいんです」。

そんな気持ちを伝える中で話した父親のことだったのだが、子供たちと触れあううちに片山は、幼いころの父親との思い出までもがよみがえってきて、感極まってしまったようだ。

唇を噛みしめてうつむいたまま、しばらく静かな時間が流れた。
そんな片山の様子に小学3年の永盛楓人(ふうと)くんも、涙を堪えきれなかった。
大きな目から、ぽろぽろと涙をこぼしながら片山の、声にならない声に耳をすませた。

「僕もお父さんの話のところにジ〜ンと来たよ」と言った小4の大高翼くんが、それよりもっと感銘を受けたのは片山が、同市内にある水城高校に、毎朝5時44分の電車に乗って1時間半かけて通っていたことだという。
朝練をこなし、夜は深夜までゴルフに打ち込んだという片山に未来の自分を重ね、「僕も片山さんのように目標を作って一生懸命に頑張りたい」と大高くん。

小4の大和田里奈さんは、片山が小学校時代のいじめを乗り越えたエピソードが強く心に残った。5度の賞金王も、幼いころからさまざまな苦難を乗り越えてきたからこそだった。
それを知って、大和田さんも勇気が出てきた。
「社会に出たら、きっと大変だと思うけど、私も片山選手のように、いじめられても頑張って生きていきます!」。

永盛くんは、講演会が終わってもまだ静かに涙を流していた。

「みんなの心がとってもきれいで、逆に僕がパワーをもらった」と感謝した片山は、講習会の最後に全員にサインボールを贈った。

ディンプルを手で撫でたり、頬にこすりつけてみたり。いとおしそうにその感触を確かめ合う子供たちに、村田校長先生はちょっとからかう気持ちで言ってみた。
「いいなあ、そのボール。いくらなら先生に譲ってくれる?」。
「……7億円!!」と即答が返ってきて、村田校長先生も思わずズッコケてみせながら、「でも子供たちには確かにそれほどの価値がある」と心で大きく頷いた。
  • 可愛らしい花束と
  • 生徒たちの手作りの作品をプレゼントにもらって感激しきり
  • 片山からも、サインボールのプレゼント
  • 受け取った子供たちは、みなそれはそれは大切そうにボールの感触を確かめていた

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