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片山晋呉がゴルフ伝道師に

子供たちの笑顔が思った以上に明るい。
正直、ここに来るまでは不安だったのだ。
「ちゃんと、伝わるのだろうか。ちゃんと、教えられるだろうか……」。
今年2月から始まったジャパンゴルフツアー選手会メンバーによる“ゴルフ伝道の旅”。
選手たちが全国各地の小学校を訪れて、その楽しさ面白さ、また、夢を持つことの大切さを伝えて歩く試みは、いよいよ最後の7校目を迎えたが今回の片山が、もっとも難しい旅だったと言えるのではないだろうか。
6月1日(月)に訪れたのは、片山の地元・茨城県の水戸市にある県立盲学校だ。
今年、創立101年を迎える同校は、県で唯一の盲学校でもある。
幼、小、中、高合わせて49人の生徒が学ぶ。
この日、片山は初心者用の練習用具「スナッグゴルフ」を使って小学生と一緒にゲームに興じ、給食をはさんで、小・中・高生を対象に、講演をすることになっていた。
門をくぐって最初に通された応接室で村田孝二校長先生は、講演用に作成された資料を見せてくださった。
片山のプロフィールを紹介したものなど、すべてが点字で画かれている。
その凹凸をそっと指でなぞってみたが、目が見えないことが実際はどういうことか、理解できるわけもない。
また視覚障害とひとくちにいっても、さまざまな症状があるという。
スナッグゴルフの寄贈式のあと行われた講習会で、一人の子供に「目の前にあるボールは見えないけれど、遠くにあるあの的は見える」と言われても、ではそれがいったいどういう感覚なのか。分かるわけもない。
まして、講習会に参加したのはみなほとんどが全盲の子供たちだ。
しかし、戸惑う片山の不安を吹き飛ばしてくれたのは、子供たち自身だった。
目が不自由な分、感覚が鋭くなるからだろうか。
レッスンに複雑な説明は要らなかった。その手を取り、グリップの形を教え、時計の針になぞらえてクラブの上げ方を伝え、「ボールはここだよ」と導けば、ほとんどの子が2度目からは、補助なしで器用にボールを飛ばした。
初めは緊張気味だった賞金王も次第に乗ってきた。
子供たちのナイスショット連発に、思わず、感嘆の声を上げる。
「うまいぞ、その調子!!」。
片山に「センスがある」と絶賛されたレフティの田名見梨捺さん(小6)は、村田校長先生に「スナッグゴルフがもっと上手になったら、本物のゴルフをしてみるかい?」と提案されて、ブンブンと頭を振った。
「そんなの、出来ませんっ!」。
しかし、実際に目の不自由な人でも楽しめるブラインドゴルフという種目があり、全国レベルの競技もあると聞かされて、がぜん興味をそそられた。
「やってみようかなあ…」とたちまち目を輝かせ、「そのためには、もっと練習しないといけません!」と、張り切った。
こういったジュニアレッスン会で片山はいつも、「これからもゴルフをやってね」などと、強要はしないようにしている。
子供たちがただ、今日という日を心から楽しんでくれて、もしも本人たちの気が向けば、明日も、そして明後日も、またクラブを握ってくれればそれでいいと考えているからだ。
自分がここで教えたことは、単なるきっかけに過ぎない。
それでも子供たちは、「すっごく面白い」「これからももっと、ゴルフがしたい」と、口々に言った。
体育部の帷子(たかびら)裕治先生も、鈴木幸子先生も、田崎恭子先生ももちろん、子供たちの要望に応え、この6月からさっそくスナッグゴルフをカリキュラムに加える。
村田校長先生は、子供たちの楽しそうな様子を見ているうちに、ここから歩いて10分のところにあるお隣の水戸市立常磐小学校と「スナッグゴルフで交流出来ればまた楽しいのではないか」とのプランも浮かんできた。
真っ青な空の下で子供たちは、日本でもっとも強いプロゴルファーと手と手をつなぎ、体を寄せ合い、声を立てて笑い合っている。
「夢のようだ」と、村田校長先生は思った。
「子供たちは今日の日を、片山プロの声と手触りを、一生忘れないでしょう」と、感謝した。

この日のスケジュールの最初は「スナッグゴルフの寄贈式」。生徒を代表して小6の小島陵くんに、リボンのかかったランチャーを手渡した。 
はじめは戸惑っていた片山も子供たちの無邪気な様子にすぐに慣れ、レッスンにも次第に熱が入った 
レフティの田名見さんは賞金王に絶賛されてがぜんやる気。「もっと練習しないといけません!」と、張り切った 
ボールを打つ感触、的に当たる音。そして全身で感じる賞金王のぬくもり…。心躍る瞬間に子供たちは、夢中になった














